火葬と収骨を終え、葬儀という大きな儀式の、締めくくりとして行われる会食が「精進落とし」です。この席でいただく弁当は、通夜振る舞いのものとは、その意味合いも、内容も、大きく異なります。精進落としの弁当が持つ、特別な意味と、その豪華な内容について、理解を深めてみましょう。まず、精進落としの席が持つ、本来の意味を理解することが重要です。仏教では、故人が亡くなってから四十九日間、ご遺族は肉や魚といった生臭ものを断ち、質素な「精進料理」を食べて、故人の冥福を祈る、という期間(中陰)を過ごすのが伝統でした。そして、葬儀は、その期間の始まりを意味します。精進落としとは、この厳しい精進期間に入る前に、葬儀でお世話になった僧侶や、手伝ってくれた親族などを労い、感謝を示すために設けられた、最後の「もてなしの宴」なのです。この席をもって、ご遺族は「これから精進に入ります」と宣言し、日常から非日常(弔い)へと移行する、という区切りの意味がありました。このような背景から、精進落としで振る舞われる食事は、通夜振る舞いとは異なり、肉や魚も使った、華やかで豪華な内容となるのが特徴です。現代では、葬儀後にそのまま精進期間に入る方は少なくなりましたが、僧侶や親族への「感謝」と「労い」という、もてなしの心は、変わることなく受け継がれています。精進落としの弁当には、お造りや焼き魚、天ぷら、煮物、そして寿司やうなぎ、ステーキといった、豪華な食材がふんだんに使われます。その費用相場も、一人あたり五千円から一万円以上と、通夜振る舞いの弁当に比べて、高額になります。これは、ご遺族が、大切な故人のために、そして支えてくれた人々への感謝のために、費用を惜しまず、最高のもてなしをしたい、という想いの表れなのです。また、この席には、思い出話を語り合い、悲しみを分かち合うことで、ご遺族の心を癒やす、グリーフケアとしての側面もあります。豪華な食事を共にしながら、故人がいかに素晴らしい人生を送ったかを語り合う時間は、残された家族が、明日への一歩を踏み出すための、温かいエネルギーを充電する、かけがえのない時間となるのです。