住み慣れた自宅で故人を見送る自宅葬は、遺族にとって心穏やかな時間をもたらしてくれますが、その一方で、ご近所への配鵡が成功の鍵を握ると言っても過言ではありません。普段の生活空間で葬儀という非日常的な儀式を行う以上、周囲の住民への丁寧な説明と理解を求める姿勢が不可欠です。最も重要なのが「事前の挨拶」です。理想的なタイミングは、通夜の前日か、遅くとも当日の午前中です。挨拶に伺う範囲は、最低でも両隣と向かいの三軒、そして家の裏手にあたるお宅です。マンションの場合は、同じフロアの全戸と、上下階の部屋には必ず挨拶をしておきましょう。挨拶の際には、菓子折りなどを持参し、次のような内容を簡潔に伝えます。「急なことで恐縮ですが、明日、父の通夜を自宅で執り行うことになりました。人の出入りや車のことでご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒ご容赦ください」。このように、葬儀を行う事実と、迷惑をかける可能性について事前にお詫びしておくことで、相手の受け取り方も大きく変わってきます。また、参列者の車両問題は、近隣トラブルの最も大きな原因の一つです。事前に参列者には公共交通機関の利用をお願いするか、車で来る場合は近隣のコインパーキングを利用してもらうよう、徹底して案内しましょう。家の前に路上駐車が並ぶような事態は、絶対に避けなければなりません。葬儀当日は、家の外での大きな話し声や、夜遅くまでの人の出入りにも注意が必要です。お線香の匂いが気になる方もいるかもしれませんので、換気にも気を配りましょう。故人との思い出が詰まった大切な自宅が、ご近所とのトラブルの原因になってしまっては、故人も浮かばれません。温かいお見送りをするためにも、周囲への感謝と配慮の気持ちを常に忘れないようにしたいものです。