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葬儀のポイントカードは本当に必要か
近年、一部の葬儀社が導入を進めているポイントカードや会員制度。葬儀費用の割引や、様々な特典が受けられると聞くと、魅力的に感じるかもしれません。しかし、その一方で、「人の死にポイントが付くなんて、不謹慎ではないか」「そもそも、そんなに何度も利用するものではないのに、本当に意味があるのか」といった、戸惑いや疑問の声があるのも事実です。葬儀のポイントカードは、私たち消費者にとって、本当に必要なのでしょうか。その必要性を考える上で、まず理解しておくべきなのが、これらのサービスの主な目的は「顧客の囲い込み」である、ということです。葬儀業界は、競争が非常に激化しています。その中で、一度きりのお客様で終わらせず、法事や、将来の別の家族の葬儀など、長期的な顧客として繋ぎとめておくための、マーケティング戦略の一環として、ポイントカードは導入されています。この仕組み自体は、他の業界でも行われている、ごく一般的なものです。しかし、葬儀という、極めて非日常的で、感情的な要素が強いサービスにおいて、この「お得感」を前面に出したアプローチが、必ずしも消費者の心に響くとは限りません。ご遺族が葬儀社に求めているのは、ポイントや割引といった金銭的なメリット以上に、「心から信頼できる担当者との出会い」や、「故人らしい、温かいお別れを実現するための提案力」だからです。もし、ポイントが貯まるという理由だけで、担当者の対応に不満があるにもかかわらず、その葬儀社を選んでしまったとしたら、それは本末転倒です。また、ポイントの利用範囲が、その葬儀社や提携企業のサービスに限定されている場合、結果的に選択の自由を狭めてしまう可能性もあります。大切なのは、ポイントカードの有無や、目先の割引額だけで、葬儀社を判断しない、という冷静な視点です。まず、複数の葬儀社から、同じ条件で見積もりを取り、総額で比較検討する。そして、何よりも、担当者の人柄や、提案内容に、心から納得できるかどうかを、最優先の判断基準とする。その上で、もし信頼できる葬儀社が、たまたまお得なポイントサービスも提供していた、というのであれば、それは賢い選択と言えるでしょう。
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葬儀ポイントは相続財産になるのか
葬儀社のポイントカード会員だった故人。そのカードに、もし未使用のポイントが貯まっていた場合、そのポイントは、一体誰のものになるのでしょうか。預貯金や不動産と同じように、「相続財産」として、遺族に引き継がれるのでしょうか。これは、デジタル化が進む現代ならではの、新しい法律的な問題です。結論から言えば、多くの場合、葬儀社のポイントは「相続の対象とはならない」可能性が高いです。その理由は、ポイントサービスの利用規約にあります。ほとんどの企業のポイントサービスの利用規約には、「ポイントは、会員本人に一身専属するものとし、第三者への譲渡、貸与、相続はできません」といった旨の条項が、明記されています。この「一身専属権」という考え方は、その権利が、特定の個人との関係においてのみ成立し、その人が亡くなると同時に消滅する、というものです。例えば、運転免許証や、医師免許といった資格が、相続されないのと同じ理屈です。したがって、故人が貯めたポイントを、相続人が「私のポイントとして、引き継いで使います」と主張することは、規約上、基本的にはできない、ということになります。ただし、葬儀社の対応は、必ずしもこの規約通りに、杓子定規に運用されているわけではありません。特に、葬儀という、ご遺族の心情に深く配慮すべき場面においては、規約はありつつも、実際には、柔軟な対応が取られるケースも少なくありません。例えば、故人の葬儀費用そのものに、故人が貯めていたポイントを充当することを、特例として認めてくれる、といった対応です。これは、相続という形ではなく、あくまで、故人自身の最後の支払いに、故人のポイントを使う、という解釈です。あるいは、相続人である配偶者や子供が、新たにその葬儀社の会員になる際に、故人のポイントを、移行・引き継ぎさせてくれる、といった温情的な措置が取られる可能性もあります。もし、故人のポイントカードが見つかった場合は、諦めずに、一度、その葬儀社に連絡を取り、「故人が会員で、ポイントが残っているようなのですが、今回の葬儀に利用させていただくことは可能でしょうか」と、丁寧に相談してみることをお勧めします。法律や規約も大切ですが、それ以上に、人と人との繋がりを重んじる。それが、葬儀という世界の、あるべき姿なのかもしれません。
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これからの葬儀とポイントサービスの未来
葬儀業界におけるポイントカードの導入は、ある意味で、葬儀が「聖域」ではなく、他のサービス業と同じ、一つの「市場」になったことの象徴と言えるかもしれません。競争が激化し、消費者の価値観が多様化する中で、企業が顧客満足度を高め、リピーターを確保するための手段として、ポイントサービスを活用するのは、ごく自然な流れです。では、今後、この葬儀とポイントサービスの関係は、どのように進化していくのでしょうか。その未来を少しだけ、想像してみましょう。まず、考えられるのが「ポイントの共通化と提携先の拡大」です。現在は、特定の葬儀社でしか使えないポイントが、将来的には、Tポイントや楽天ポイントのような「共通ポイント」に加盟し、業界の垣根を越えて、貯めたり、使ったりできるようになるかもしれません。例えば、葬儀の支払いで貯まったポイントを、スーパーでの日常の買い物に使ったり、逆に、普段の買い物で貯めたポイントを、法事の費用に充当したり、といったことが可能になるのです。これにより、ポイントの利便性は飛躍的に向上し、消費者にとって、より身近で、価値のあるものになるでしょう。また、ポイントの使い道も、単なる割引だけでなく、より多様化していく可能性があります。例えば、「5000ポイントで、プロのカメラマンによる遺影写真の生前撮影サービス」「10000ポイントで、エンディングノート作成セミナーへのご招待」といった、終活に関連する、ユニークなサービスと交換できるようになるかもしれません。あるいは、貯まったポイントを、故人が支援していたNPO団体や、災害の被災地へ「寄付」できる、といった社会貢献型の選択肢が生まれる可能性もあります。これは、「故人の遺志を、社会に役立てる」という、新しい供養の形を提案するものです。一方で、こうした合理的なサービスが進化するほど、私たちは、その対極にある「人の手による、温かいサービス」の価値を、より強く求めるようになるかもしれません。ポイントが付く、付かない、といった損得勘定を超えて、「あの担当者さんに、もう一度お願いしたい」。そう思わせるような、深い人間的な信頼関係こそが、最終的には、他のどんなサービスにも勝る、最強の「顧客ロイヤリティ」となる。葬儀とポイントサービスの未来は、そんな、合理性と人間性の、両極を追求する形で、進化していくのかもしれません。
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ポイントカードで葬儀社を縛るリスク
「せっかく会員になって、ポイントも貯まっているのだから、次の葬儀も、この会社にお願いしないと、もったいない」。葬儀社のポイントカードを持つことで、多くの人が、このような心理状態に陥りがちです。これは、マーケティングの世界で「ロックイン効果」と呼ばれるもので、顧客を自社のサービスに「縛り付け」、他社への流出を防ぐための、非常に巧みな戦略です。しかし、この「もったいない」という感情が、いざという時の、あなたの、そして家族の、最良の選択を、曇らせてしまう大きなリスクになる可能性があることを、私たちは知っておくべきです。葬儀は、その時々の状況によって、求められる形が全く異なります。例えば、十年前に父親の葬儀を、ある葬儀社で、立派な一般葬として執り行ったとします。その時に貯まったポイントが、まだ残っている。そして今回、母親が亡くなった。しかし、母親の生前の遺志は、「ごく近しい家族だけで、静かな家族葬にしてほしい」というものだったとします。この時、もしあなたが「ポイントがもったいないから」という理由だけで、十年前に利用した、一般葬を得意とする大規模な葬儀社に、今回も依頼してしまったら、どうなるでしょうか。その会社は、小規模な家族葬のノウハウが乏しく、結果的に、割高で、画一的な、母親の遺志とはかけ離れたお別れになってしまうかもしれません。本来であれば、あなたは、家族葬を専門とする、より安くて、より心のこもったサービスを提供してくれる、別の葬儀社を選ぶべきだったのです。ポイントという、過去のサービスへの対価に縛られるあまり、未来の、そして今回の葬儀における「最良の選択」を見失ってしまう。これが、ポイントカードが持つ、最大のリスクです。また、担当者との相性も、葬儀の満足度を大きく左右します。十年前に素晴らしい対応をしてくれた担当者が、今も在籍しているとは限りません。今回の担当者とは、どうしても相性が合わない、と感じることもあるでしょう。そんな時でも、「会員だから」という理由で、我慢を強いられてしまうとしたら、それは不幸なことです。ポイントカードは、あくまで、葬儀社選びの「付加価値」の一つに過ぎません。その時々の、故人の遺志と、ご遺族の想いを、最も大切に、そして最高の形で実現してくれるのは、どの会社なのか。常に、ゼロベースで、冷静に比較検討しましょう。