「せっかく会員になって、ポイントも貯まっているのだから、次の葬儀も、この会社にお願いしないと、もったいない」。葬儀社のポイントカードを持つことで、多くの人が、このような心理状態に陥りがちです。これは、マーケティングの世界で「ロックイン効果」と呼ばれるもので、顧客を自社のサービスに「縛り付け」、他社への流出を防ぐための、非常に巧みな戦略です。しかし、この「もったいない」という感情が、いざという時の、あなたの、そして家族の、最良の選択を、曇らせてしまう大きなリスクになる可能性があることを、私たちは知っておくべきです。葬儀は、その時々の状況によって、求められる形が全く異なります。例えば、十年前に父親の葬儀を、ある葬儀社で、立派な一般葬として執り行ったとします。その時に貯まったポイントが、まだ残っている。そして今回、母親が亡くなった。しかし、母親の生前の遺志は、「ごく近しい家族だけで、静かな家族葬にしてほしい」というものだったとします。この時、もしあなたが「ポイントがもったいないから」という理由だけで、十年前に利用した、一般葬を得意とする大規模な葬儀社に、今回も依頼してしまったら、どうなるでしょうか。その会社は、小規模な家族葬のノウハウが乏しく、結果的に、割高で、画一的な、母親の遺志とはかけ離れたお別れになってしまうかもしれません。本来であれば、あなたは、家族葬を専門とする、より安くて、より心のこもったサービスを提供してくれる、別の葬儀社を選ぶべきだったのです。ポイントという、過去のサービスへの対価に縛られるあまり、未来の、そして今回の葬儀における「最良の選択」を見失ってしまう。これが、ポイントカードが持つ、最大のリスクです。また、担当者との相性も、葬儀の満足度を大きく左右します。十年前に素晴らしい対応をしてくれた担当者が、今も在籍しているとは限りません。今回の担当者とは、どうしても相性が合わない、と感じることもあるでしょう。そんな時でも、「会員だから」という理由で、我慢を強いられてしまうとしたら、それは不幸なことです。ポイントカードは、あくまで、葬儀社選びの「付加価値」の一つに過ぎません。その時々の、故人の遺志と、ご遺族の想いを、最も大切に、そして最高の形で実現してくれるのは、どの会社なのか。常に、ゼロベースで、冷静に比較検討しましょう。