葬儀に参列する際の男性の服装マナーは、胸元のあしらいに、その人の品格が表れると言っても過言ではありません。ポケットチーフを挿さない、というのは大前提ですが、それ以外にも、注意すべき、いくつかの細やかなポイントが存在します。まず、スーツの「ラペル(襟)」部分につけるアクセサリーです。会社の社章などの「ラペルピン」は、外していくのが基本です。社章は、あくまでビジネスの場での所属を示すものであり、プライベートな弔いの場にはふさわしくありません。ご遺族や他の参列者から見れば、仕事の延長で、儀礼的に参列している、という印象を与えかねません。故人への純粋な弔意を示すためにも、ラペルには何もつけない、というのが最も丁寧な対応です。次に、ネクタイ周りのアクセサリーです。ネクタイを固定するための「ネクタイピン」や「タイバー」は、光り物であり、装飾品と見なされるため、葬儀の場では着用しません。ネクタイが乱れるのが気になる場合は、上着のボタンをきちんと留めておくことで、ある程度防ぐことができます。同様に、ワイシャツの襟を留める「カラーピン」なども、もちろんNGです。ワイシャツの選び方にも、注意が必要です。襟の形は、最もフォーマルな「レギュラーカラー」か、やや広めの「ワイドカラー」を選びます。襟の先にボタンがついている「ボタンダウンシャツ」は、元々、ポロ競技で襟がめくれないように考案された、スポーティーでカジュアルなデザインです。そのため、葬儀のような、最も格式の高いフォーマルな場には、ふさわしくありません。必ず、ボタンのない、シンプルな襟のシャツを選びましょう。そして、意外と見落としがちなのが、スーツの「フラワーホール」です。これは、ラペルに開けられたボタンホールのような穴のことで、かつては花を挿すために使われていました。もちろん、ここに花などを挿すのは論外です。社章などをつけている場合は、このホールに通すことが多いですが、前述の通り、葬儀では外しておきましょう。胸元は、徹底的に「シンプル」に、そして「クリーン」に。白いワイシャツと、黒いネクタイ。それ以外の要素を、極限まで削ぎ落とすこと。その引き算の美学こそが、葬儀における、最も洗練された、胸元のマナーなのです。