一般の参列者が葬儀でポケットチーフを着用するのはマナー違反、というのが基本的な考え方です。では、葬儀を主催する側である、喪主や、ごく近しい親族の場合はどうなのでしょうか。この立場であれば、着用は許されるのでしょうか。この問いに対する答えは、一概に「はい」とも「いいえ」とも言えない、非常にデリケートなものです。まず、最も格式の高い喪服である「正喪服(モーニングコート)」を着用する場合に限っては、ポケットチーフの着用が、正式なマナーとして認められています。モーニングコートを着用する際、その胸ポケットには、白の麻(リネン)素材のポケットチーフを、「スリーピークス」または「スクエアフォールド」という、格式の高い折り方で挿すのが、本来の正しい着こなしです。これは、装飾というよりも、礼装の一部としての、儀礼的な意味合いが強いものです。しかし、現代の葬儀において、喪主であっても、このモーニングコートを着用するケースは、非常に稀になっています。ほとんどの場合、喪主や親族も、一般の参列者と同じ「準喪服(ブラックスーツ)」を着用します。そして、このブラックスーツを着用する場合、ポケットチーフは「着用しない」のが、最も一般的で、無難な選択とされています。なぜなら、たとえ喪主であっても、華美な装飾を避け、慎み深い姿勢を示すべきである、という葬儀の基本理念は、変わらないからです。一般の参列者がチーフを挿していない中で、喪主や親族だけが胸元を飾っていると、かえって違和感を与え、悪目立ちしてしまう可能性もあります。ただし、これはあくまで一般的な見解です。家系や地域の慣習、あるいは故人の遺志などによっては、喪主がブラックスーツに、白の麻のポケットチーフを、スクエアフォールドで挿す、というスタイルが、許容される、あるいは推奨される場合も、全くないわけではありません。もし、着用を検討する場合は、必ず、親族の年長者や、葬儀を依頼する葬儀社の担当者に、「喪主として、ポケットチーフを挿しても問題ないでしょうか」と、事前に相談し、その場の慣習を確認することが不可欠です。自己判断で着用し、後から親族間で物議を醸す、といった事態は、絶対に避けなければなりません。
喪主や親族ならポケットチーフは良いのか