「葬儀費用100万円」。この具体的な金額が決まった時、次に直面するのが、「そのお金を、誰が、どのように支払うのか」という、非常に現実的で、そしてデリケートな問題です。この支払いのプロセスを事前に理解し、親族間で共有しておくことは、後のトラブルを避けるために非常に重要です。まず、法律的な観点から言うと、葬儀費用を支払う義務は、葬儀を主宰した「喪主」にある、と解釈されるのが一般的です。しかし、実際には、喪主が個人の財産から100万円という大金を、全額負担するケースは、むしろ稀です。多くの場合は、故人が残した「遺産(預貯金など)」から支払われます。これは、社会的な慣習として、相続人全員の共通の認識となっていることがほとんどです。しかし、ここで大きな壁となるのが「銀行口座の凍結」です。金融機関は、口座名義人の死亡を確認した時点で、相続トラブルを防ぐために、その口座を凍結してしまいます。そのため、葬儀社への支払い期限である、葬儀後一週間から十日程度の間に、故人の預金を自由に引き出すことができないのです。では、どうすれば良いのでしょうか。最も一般的な流れは、まず喪主、あるいは他の相続人が、一時的に100万円を「立て替えて」葬儀社に支払います。そして、後日、遺産分割協議を経て、相続手続きが完了し、故人の預金が引き出せるようになった時点で、その遺産の中から、立て替えた人に100万円を精算する、という形です。この時、誰がいくら立て替えたのかを明確にするためにも、葬儀社から受け取った領収書は、絶対に失くさないように、大切に保管しておく必要があります。また、参列者からいただいた「香典」を、この100万円の葬儀費用の一部に充当することも、広く行われています。香典には、ご遺族の経済的負担を相互に助け合うという意味合いも含まれているため、費用に充てることは、何ら問題ありません。例えば、香典で40万円が集まった場合、残りの60万円を、故人の遺産から支払う、といった形になります。もし、故人の遺産や香典だけでは100万円に満たない場合は、残りの金額を、相続人(例えば、子供たち)で、均等に分担して負担するのが、最も公平で、トラブルの少ない方法と言えるでしょう。