葬儀という厳粛な儀式の中で、食事を共にするという行為は、故人を偲び、集まった人々が互いの悲しみを分かち合い、絆を深めるための、非常に重要な意味を持っています。その食事の形として、近年、特に都市部の葬儀や、小規模な家族葬で増えているのが、「弁当」というスタイルです。では、葬儀において、弁当はどのような場面で、どのような目的で振る舞われるのでしょうか。主に、二つの重要な会食の場面が挙げられます。一つ目は、通夜式の後に行われる「通夜振る舞い」です。これは、弔問に訪れてくださった方々へ、感謝の気持ちを示すと共に、故人の思い出を語り合いながら、最後の夜を共に過ごすための席です。かつては、大皿に盛られた寿司やオードブルなどを、大勢で取り分けるのが一般的でしたが、感染症対策への意識の高まりや、準備・片付けの手間を省きたいというニーズから、一人ひとり個別に提供できる、通夜振る舞い用の弁当が広く選ばれるようになりました。二つ目は、火葬を終え、斎場に戻ってから行われる「精進落とし」です。これは、葬儀を手伝ってくださった親族や、特に親しかった方々、そして儀式を執り行っていただいた僧侶などを労い、感謝を示すための、最後の会食です。この席でも、レストランや料亭に移動する代わりに、斎場の会食室で、仕出しの豪華な精進落とし弁当をいただく、というスタイルが増えています。これも、移動の手間が省け、ご遺族や高齢の親族の負担を軽減できるという、大きなメリットがあります。このように、通夜振る舞いと精進落としという、性格の異なる二つの会食の場で、弁当というスタイルは、現代の葬儀が求める「衛生的」「効率的」「負担軽減」といったニーズに、非常にうまく合致した、賢明な選択肢として、その存在感を高めているのです。