「故人らしい葬儀にするために、音楽を流したい。でも、故人に、これといった『好きな曲』が思い当たらない…」。そんな悩みを抱えるご遺族は、実は少なくありません。音楽にあまり興味がなかった方や、特定の曲を聴き込む習慣がなかった方の場合、その人を象徴する一曲を、残された家族が選ぶのは、非常に難しい作業です。そんな時、どのように考え、曲を選べば良いのでしょうか。まず、視点を少し変えてみましょう。「故人が好きだった曲」が見つからないのであれば、「故人と一緒に聴いた、思い出の曲」を探してみるのです。例えば、家族旅行の車の中で、いつもカーラジオから流れていた、あの頃のヒット曲。夫婦でよく観に行っていた、映画のテーマソング。子供の運動会で、毎年かかっていた応援歌。これらの曲は、故人個人が好きだった曲ではないかもしれません。しかし、そこには、家族と共に過ごした、かけがえのない「時間」と「風景」の記憶が、深く刻み込まれています。その曲を流すことで、参列者は、故人との温かい思い出を、より具体的に、そして共感的に、心に思い浮かべることができます。それでも、しっくりくる曲が見つからない場合は、「故人の人柄やイメージ」から連想して、曲を選ぶ、という方法もあります。例えば、いつも穏やかで、優しかったお母様なら、ショパンの「ノクターン」のような、優美なピアノ曲。豪快で、いつも仲間たちの中心にいたお父様なら、ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」のような、温かく、包容力のあるジャズ。その人のイメージに合った曲は、たとえ生前に聴いたことがなくても、不思議と、その人らしさを、会場にいるすべての人に伝えてくれます。そして、どうしても選曲が難しい場合は、無理にポップスなどを選ばず、プロである葬儀社の担当者に相談し、「葬儀の雰囲気に合う、定番のクラシック曲や、ヒーリング音楽」のリストの中から、いくつか試聴させてもらい、その中から、最も心に響くものを選ぶ、というのも、賢明な判断です。大切なのは、完璧な一曲を見つけることではありません。故人のことを、一生懸命に想い、考え、悩みながら、曲を選ぶ。そのプロセスそのものが、何よりの供養となるのです。たとえ無音の葬儀であったとしても、あなたの心の中には、故人への、世界で一番美しいメロディーが、きっと流れているはずですから。